お通夜やお葬式をする前には必ず『納棺』をします。
でも、『納棺』という言葉を聞いたことはあっても、具体的に何をするのか分かりませんよね。
納棺をするときには、ただ【ご遺体を棺に納める】だけではなく、
- 末期の水(死に水)
- 湯灌
- 死化粧
- 死装束を着せる
- 遺体を棺に納める
- 副葬品を棺の中へ入れる
- フタを閉じる
などの《あの世への旅支度》もしています。
この記事では、現役僧侶の私が『納棺』について詳しく解説していますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
納棺は必要なので予習のつもりでご覧ください。
※先に『納棺の流れ』を知りたい人はこちらからどうぞ。
納棺とは
お通夜やお葬式が始まる前、または火葬をする前には故人(ご遺体)を棺に納めます。
故人(ご遺体)を棺に納めることを『納棺』といいます。
納棺のときには、
- 湯灌をする
- 死装束や死化粧などの旅支度を整える
- ご遺体が納められた後に副葬品を納める
などを執り行いますが、これを【納棺の儀】といい、故人が亡くなってから最初に行う儀式です。
納棺の儀は、葬儀社スタッフや納棺師による進行のもと、基本的には家族だけで行います。
家族が見守る中で、故人の体をキレイに洗い、化粧を施し、真っ白な装束を着せ、用意しておいた棺に納め、お通夜やお葬式に備えます。
あの、そもそも棺桶は必要なの?
はい、棺桶は必ず使います。
どこの火葬場でも、火葬をするには【ご遺体が棺に納められていること】が条件となっていますので、よほどの理由がない限りは棺桶が必要になります。
そして、ここで1つ注意していただきたいことがあります。
それは、納棺師による湯灌の費用は葬儀の基本プランに入っていないことが多いということです。
湯灌をするには専用の機材が必要なので、オプション扱いとなって追加費用が発生するため、湯灌の料金については事前に確認しておいてください。
また、ご遺体を納める棺桶にもいくつか種類があり、それぞれに金額も違いますので、棺桶そのものについても事前に確認しておくといいですよ。
《関連記事》:『棺桶の選び方』を僧侶が伝授!棺桶は素材や形状の種類が意外と多い
納棺をする場所
納棺をする場所はある程度決まっており、ほとんどが『自宅』あるいは『葬儀式場』で行われます。
自宅
納棺は『自宅』で行うことが多いです。
病院で亡くなった場合などは、ご遺体が自宅に搬送されることが多いので、そのまま自宅での納棺という流れになります。
故人にとっても馴染みのある場所で家族に見守られながら納棺される方が喜ぶことでしょう。
ご遺体は基本的に《故人の自宅》に搬送されますが、故人が一人暮らしであった場合は《喪主の自宅》ということもあります。
葬儀式場
最近では『葬儀式場』で納棺をすることも増えてきました。
ご遺体の搬送先が自宅ではなく『葬儀式場』ということもありますので、その場合は葬儀式場の安置室で納棺をすることが多いです。
あるいは、お葬式をする会場内の祭壇前で納棺をすることもあります。
葬儀式場での納棺については、葬儀社ごとにやり方が異なりますので、あらかじめ確認しておくといいですよ。
納棺の流れ
ここからは納棺の流れについて紹介します。
納棺はだいたい、
- 末期の水(死に水)
- 湯灌
- 死化粧
- 死装束を着せる
- 遺体を棺に納める
- 副葬品を棺の中へ入れる
- フタを閉じる
という流れになります。
末期の水(死に水)
故人を棺へ納める前に『末期の水』をおこないます。
『末期の水』とは、亡くなった人の唇に水を含ませ、喉を潤してあげることをいいます。
じつは、本来の『末期の水』は人が亡くなる直前に行われるものなんですよね。
というのも、『末期の水』の起源が、
お釈迦様は亡くなる直前に「喉が渇いた。飲み水を持ってきてくれないか?」と弟子に頼んだ。しかし、その日は河の水がとても濁っており、弟子は飲み水を持ってくることができなかった。そのとき、雪山に住む鬼神が現れて『雪山の浄水』をお釈迦様に捧げた。お釈迦様はその水を飲んで安らかに旅立つことができた。
という仏教の説話だからです。
つまり、末期の水というのは、臨終を目前にした人が喉の渇きで苦しまず、少しでも安らかに旅立ってもらうために喉を潤してあげるのです。
また、医学がまだ未熟だった頃は、唇に水を含ませてあげることで喉仏の動きや音などを確認し、水が喉を通っているかどうかで生死を判断したとのこと。
でも、今では医学が発達したこともあって、臨終の直後に末期の水をとることがほとんどです。
末期の水をおこなうには、まず、箸の先に脱脂綿を糸でくくり付けたものと、水の入った湯呑み(またはコップ)を用意します。
そして、湯呑みの水に脱脂綿を半分くらいまで浸し、その脱脂綿で故人の唇に水を含ませてあげます。
唇に水を含ませるといっても、唇の表面を濡らしてあげる程度でかまいません。
また、唇についた水が頬にたれてしまったら、ハンカチなどでそっと拭いてあげましょう。
末期の水をおこなうときには順番があり、
- 配偶者
- 子
- 親
- 兄弟姉妹
- 子の配偶者
- 孫
- いとこ
- 伯父伯母(叔父叔母)
- その他の親戚
というのが一般的です。
病院で亡くなった場合、病院内ですぐに末期の水をおこなうことも多いので、そのときは立ち会った家族だけで行います。
自宅で末期の水をおこなう場合は、家族だけでもいいですし、すぐ近くに住む親戚がいれば一緒におこなってもよいでしょう。
湯灌
故人を棺に納める前には『湯灌』をすることが多いです。
湯灌というのは、湯を灌ぐという漢字のとおり、故人の体をお湯で洗うことです。
湯灌をすることで、体の汚れを落とすだけではなく、煩悩を洗い流して体を清める意味もあります。
また、湯灌は『逆さ水』とも呼ばれています。
私たちは入浴時に浴槽のお湯の温度調整をする場合、【お湯に水を足して調整】しますよね?
しかし、湯灌のときは逆に【水にお湯を足して調整】することから『逆さ水』と呼ばれています。
『逆さ水』はお葬式でよくいわれる《逆さごと》の1つです。
《逆さごと》というのは『あの世とこの世は真逆の世界である』という考え方により、通常の生活とは逆のやり方で物事を行うことです。
逆さごとには『故人がこの世に未練を残さないようにする』という意味もありますよ。
湯灌は、自宅であれば専用の浴槽を搬入して行われ、葬儀式場であれば湯灌専用の部屋で行われます。
湯灌をするときには、まず納棺師(湯灌師も兼ねる)が全体の流れを説明し、それから遺体を少しもみほぐします。
次に、故人の足元から頭に向かって順番に体を洗い、ちゃんとシャンプーで洗髪をし、ヒゲを剃り、爪を切り、髪を乾かして整えます。
湯灌のときには大部分を納棺師に任せますが、部分的に家族も手伝うことがありますので、心を込めて丁寧に行いましょう。
死化粧
故人の体をキレイに洗ったら、次に『死化粧』を施します。
死化粧というのは、ご遺体の表情や身だしなみを整え、故人に化粧を施すことです。
化粧をしてあげることで、故人をより生前の状態に近づけ、残された家族の悲しみを少しでも軽減すると同時に故人の尊厳を守ります。
たまに「男性の場合も死化粧をした方がいいのですか?」と質問されますが、男性も死化粧をしてあげた方がいいですよ。
死化粧をするのは、故人の肌をできるだけ乾燥から守るためなんです。
ご遺体は水分補給ができないので、皮膚がどんどん乾燥していき、徐々に肌の色を変えてしまいます。
そこで、死化粧では一般的な化粧品とは違った『油分の多い化粧品』を使用し、ご遺体の皮膚の保湿をし、できるだけ肌の乾燥を遅らせます。
死化粧は絶対にしなきゃいけないものではありませんが、故人の尊厳を守るため、そして家族の悲しみを和らげるために、なるべく死化粧を施してあげてください。
あれっ?病院で亡くなったときに死化粧はしているんじゃないの?
亡くなった直後に化粧をする場合もありますが、それはエンゼルケアの1つでしょう。
近年では病院で亡くなるケースが多いため、看護師さんが『エンゼルケア』という死後処置をしてくれます。
エンゼルケアでは、次のようなことをします。
- 点滴などの医療器具を取り外し、注射の痕などの傷口が見えないように処置をする。
- 胃の内容物を腹部圧迫で取り除いたり、排泄物の始末をし、口腔内や鼻腔内にあるものを吸引除去する。
- 体液などが出てこないように、目・鼻・口に綿詰めの処置をする(最近では綿詰めをしないこともあります)。
- 体をキレイに拭いて清潔に保ち(これを『清拭』といいます)、着替えさせる。
- 髪の毛と整え、保湿をし、化粧をする。
エンゼルケアの最後に施す化粧のことを『エンゼルメイク』といいます。
このエンゼルメイクは死化粧と似ていますが、エンゼルメイクは簡易的なものであるため、死化粧とは少し違います。
死装束を着せる
死化粧が終わると、故人に白い衣装を着せます。
故人に着せる白い衣装のことを『死装束』といいます。
死装束は、修行僧や巡礼者が旅に出るときの衣装を模したものです。
ですから、死装束を着せることは故人を【悟りを求める旅】に送り出すという意味になります。
故人に着せる死装束には、
- 編笠
- 天冠(てんかん)
- 経帷子(きょうかたびら)
- 杖
- 手甲(てっこう)
- 脚絆(きゃはん)
- 草鞋(わらじ)
- 足袋
- 頭陀袋(ずたぶくろ)
- 六文銭(ろくもんせん)
- 数珠
がありますので、これらを丁寧に着せてあげましょう。
編笠
編笠とは、日差しから頭部を守るための笠で、ようするに『帽子』の役目をするものです。
しかし、納棺のときには故人に編笠を被せることはせず、顔が隠れないような場所に置きます。
天冠(てんかん)
天冠とは、額につける三角形の白い布のことです。
三角形のうちヒモがついている2点以外の頂点が上に向くように布を額にあて、頭の後ろでヒモを結びます。
天冠は『身分の高い人がつける冠』であり、故人に天冠をつけることで閻魔大王へ【高い身分で尊い人】というアピールをするのです。
経帷子(きょうかたびら)
経帷子は、お経が書かれた着物で、故人が浄土(仏の世界)に向けて旅をするときに着る衣装です。
故人が迷うことなく浄土にたどり着き、その後も安らかに過ごせるようにと願いを込めた着物なので、仏式でお葬式をする場合はちゃんと着せてあげましょう。
杖
杖は、歩行の補助するためのものです。
悟りを求める道は、ときに厳しい悪路もありますので、故人の支えとなる大事な杖なのでちゃんと棺に納めてあげてください。
手甲(てっこう)
手甲は、修行僧が手につける装具です。
手甲をつけることで、ケガや日焼けを防ぎ、防寒具にもなります。
修行の旅をするときに手をケガしないように、安全を願いながら手甲をつけてあげましょう。
脚絆(きゃはん)
脚絆は修行僧が脚につける装具です。
厳しい山道などでケガをしないよう足首や足の甲を守るためにつけます。
仏の道を歩むには健脚であることが大事ですから、修行の旅の安全を願って脚絆をつけてあげてください。
草鞋(わらじ)
草鞋とは、要するに靴です。
修行の旅をするには靴が必要ですから、しっかりと草鞋を履かせてあげましょう。
足袋(たび)
足袋は、要するに靴下みたいなものです。
足袋をはくことで、足を守るだけでなく保温効果もあります。
両足に足袋をはかせて、道中の足の寒さを少しでも軽減してあげましょう。
頭陀袋(ずたぶくろ)
頭陀袋とは、修行僧が経本やお布施などを入れて首からさげる袋のことです。
頭陀袋には六文銭を入れてあげましょう。
六文銭(ろくもんせん)
六文銭とは、三途の川を渡るときに支払う【渡し賃】のことです。
私たちは、この世からあの世へ行くときに『三途の川』を渡るとされ、その際に支払うお金が六文銭です。
この六文銭がないと三途の川を渡る前に着衣を剥ぎ取られてしまうと言われていますので、ちゃんと棺の中に入れてあげてください。
数珠
数珠は仏道修行者の必需品で、お経を読んだ回数を数えたり、『欲望を断ち切る覚悟』の象徴となるものです。
棺に入れる数珠は、故人が生前に使用していた数珠があれば、ぜひそれを手に持たせてあげてください。
ただし、数珠には火葬できない素材のものがありますので、その際は他の数珠を持たせてあげましょう。
遺体を棺へ納める
死装束を整えたら、次に故人を棺の中へ納めます。
故人を棺に納めるときは、できるだけ家族みんなで協力して行いましょう。
故人の頭を支えながら胴や脚を持って、遺体を傷つけないようにゆっくりと棺の中へ納めてください。
家族に代わって葬儀社スタッフが納めることも多いですが、その際は少し手を添えるだけでもかまいません。
棺に納めた後は、故人の両手を胸元で組ませ、数珠を持たせてあげてください。
副葬品を入れる
故人を棺に納めたら、体の周りに『副葬品』を入れます。
故人を象徴するもの、故人が生前に愛用していたものを入れてあげましょう。
副葬品を選ぶときには、必ず【燃やせるもの】を選んでください。
ただし、燃やせるものでも、分厚い本や大きな果物など【燃えにくいもの】は入れることができませんの注意してください。
フタを閉じる
棺に副葬品を入れたら、最後に家族みんなで棺のフタを閉じます。
フタを閉じるときは、足元側からゆっくりと指を挟まないように注意しながら閉じましょう。
納棺に立ち会うときの服装
お葬式のときには必ず喪服を着ますよね。
では、納棺のときには何を着ればよいのでしょう?
納棺をするときの服装は、本来なら平服(深いグレーや紺などのスーツ)がマナーとされています。
しかし、自宅で、しかも家族だけで納棺をするなら、普段着のままでかまいません。
いつも通りの服装で、厳粛でありながらもアットホームな雰囲気で納棺をしてあげてください。
ただし、納棺のときに親戚が来るという場合は平服が無難ですが、そのような服がなければ、持っている服の中から黒、グレー、紺など暗い色のものを選ぶといいですよ。
また、葬儀式場で納棺をする場合は、納棺のすぐ後に式が始まることも多いので喪服で行いましょう。
納棺の費用
火葬をするには【ご遺体が納棺されていること】が必須事項です。
納棺が必要となれば、納棺にかかる費用が気になるところですよね。
納棺にかかる費用の相場は、だいたい『5万円〜10万円』くらいです。
近年では湯灌をしない人も多く、湯灌などをせずに清拭だけの場合は5万円程度です。
一方で、納棺師に依頼をし、湯灌などをしてから納棺する場合は10万円程度が相場となります。
棺は故人にとって最後の居場所です、どのような形で納棺をするかは家族でよく話し合い、後悔のないように決めましょう。
小さな子供に納棺を見せるときは注意する
納棺は家族みんなで立ち会います。
家族の中にはまだ小さなお子様がいるケースもありますよね。
小さなお子様がいる場合、納棺に立ち会うときに少し注意してあげてください。
ご遺体に触れないように注意
小さなお子様にとって故人が『大好きなおじいちゃん、おばあちゃん』ということがよくあります。
すると、子供は何となくご遺体を触ってしまうこともあるんですよね。
じつは、ご遺体に触れると感染症のリスクがあります。
遺体の保存技術が未熟だった頃よりリスクは大きくありませんが、あまり触らない方が無難です。
小さなお子様というのは、何かを触った手を口の中に入れてしまいますよね。
病原体がお子様の口から入らないよう、大人が注意して見てあげてください。
ご遺体を見たときのショックに注意
子供はとても好奇心が旺盛で、感受性も豊かです。
そのため、子供が【物事をある程度は理解できる年齢】だった場合、ご遺体を見てショックを受けてしまうことがあります。
大好きなおじいちゃんやおばあちゃんが動かなくなり、まるで人形のように固まっているわけですから、子供にとっては衝撃的な光景です。
家族の遺体を見れば大人だってショックが強いので、子供だったらなおさらですよね。
もしかすると、あまりにショックが強く、ご遺体を見て怖がるかもしれません。
そんなときは、子供は別室で待たせるなどして、できるだけ納棺の様子を見せない方がよいでしょう。
ドライアイスに注意
ご遺体を棺の中へ納めたら、ご遺体が傷まないように棺の中へドライアイスを入れます。
ドライアイスは非常に低温であるため、素手で触ってしまうと凍傷を引き起こします。
棺は、子供でも手の届くような低い場所に安置されますので、誤ってドライアイスを触らないように注意してあげましょう。
また、近年では凍傷以外にも棺の中のドライアイスによる事故が起きています。
ドライアイスは二酸化炭素の個体であり、【-78.5℃】を境に気化します。
ですから、棺の中というのは二酸化炭素が充満しているのです。
そんなところに、棺の小窓を開けて中を覗き込むと、二酸化炭素の中に顔を突っ込むことになります。
二酸化炭素をたくさん吸い込むと、いわゆる『酸欠』の症状が現れ、それが重くなると『二酸化炭素中毒』となって意識を失い、命の危険があります
したがって、子供だけではなく大人も基本的に棺の中は覗き込まないように注意してください。
まとめ
人が亡くなると、火葬をする前には必ず『納棺』をします。
納棺をするときには、自宅や葬儀式場で、
- 末期の水(死に水)
- 湯灌
- 死化粧
- 死装束を着せる
- 遺体を棺に納める
- 副葬品を棺の中へ入れる
- フタを閉じる
などを行います。
納棺は、ただ単にご遺体を棺に納めることではなく、あの世への旅支度をするという意味もあります。
納棺は故人が亡くなってから初めて行う儀式なので、家族みんなで心を込めて棺に納めてあげましょう。
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