人が亡くなると、故人の体は少しずつ傷みが進んでいきます。
大切な人の遺体ですから、できるだけ生前の姿を残してあげたいですよね。
遺体をキレイに保存するには、
- ドライアイスを使用する
- エンバーミングを施す
という2つの方法があり、どちらを選ぶかは《お葬式までの日数》や《遺体の状態》を基準にして決めます。
この記事では、現役僧侶の私が『ドライアイス』や『エンバーミング』を利用した【遺体の保存方法】について詳しく解説しています。
お葬式をするときには必ず遺体の保存方法を決めなくてはいけないので、ぜひ最後まで読んでみてください。
大事な情報なので、しっかりと予習をしておいてくださいね。
遺体は早めの【保存の処置】が必要
人は亡くなった時点から傷みが進んでいくため、死亡後はなるべく早く(できれば4時間以内に)遺体へ【保存の処置】をしなくてはいけません。
特に故人が、
- 身体が大きい
- 体温が高い
- 感染症がある
といった場合は早急に処置することが重要です。
また、病院で亡くなった場合は、遺体をすみやかに《自宅》や《葬儀社の安置室》などへ搬送し、火葬をする日まで遺体を保存しなくてはいけません。
じゃあ、亡くなってすぐに火葬をする場合は【保存の処置】をしなくてもいいの?
じつは、そうもいかないんです。
日本の法律では死後24時間以内は遺体を火葬してはいけないという決まりがあるため、亡くなってすぐに火葬はできません。
また、お葬式当日に火葬をする地域も多いため、そうなると、亡くなった翌日にお葬式をするというのも日程的に無理があります。
それに、火葬場や葬儀式場の『予約状況』によっては、希望する日程でお葬式ができないこともあります。
特に12月~3月というのはお葬式が多い時期で、この時期は火葬場が大変混雑しており、1週間以上待たないとお葬式と火葬ができないこともザラにあります。
1週間以上待つとなると、さすがに遺体の状態が心配になりますよね。
では、遺体を保存するにはどのような方法があるのでしょうか。
遺体の保存方法としては、
- ドライアイスを使用する
- エンバーミングを施す
の2つがあります。
この2つはまったく違う保存方法なので、それぞれに何をするのかを事前に知っておくと安心です。
ドライアイスを使用する
遺体を保存するために、多くの場合は【ドライアイス】を使用します。
ドライアイスは超低温な物質であるため遺体の冷却保存には適しているのですが、取り扱いには注意が必要です。
ドライアイスの設置は基本的に葬儀社スタッフがやってくれますが、念のために家族もドライアイスの取り扱い方法を知っておくといいですよ。
ドライアイスの使用方法
ドライアイスとは二酸化炭素が固体化したものであり、温度が《約-79℃》という超低温の物質で、溶けても液体にはならず、すぐに昇華します。
ドライアイスは氷よりもはるかに低温であるため、しっかりと遺体を冷やすことができ、それだけ傷みの進行を遅らせることができます。
また、人が亡くなるといろんな体液が出てきてしまいますが、これらをドライアイスで固めることもできるのです。
ドライアイスの使用量は故人の体型によって変わりますが、最初に冷やすときには『故人の体重の20%~25%』が適正量の目安です。
故人が一般的な体重であり、なおかつ過ごしやすい時期である場合、最初に使用するドライアイスの量は【男性は12kg以上】で【女性は11kg以上】くらいになります。
2回目以降は、最初の冷却で温度が下がっているためドライアイスの使用量は少し減り、平均すると男女ともに【1日(1回)あたり10kg程度】となります。
ドライアイスを購入するときは2kgまたは2.5kg単位が一般的なので、お葬式までの日数をもとにドライアイスの使用量を計算し、必要な量を葬儀社へ注文してください。
ドライアイスのことは葬儀社スタッフがやってくれますが、自分でやる場合は取り扱いに注意しましょう。
ドライアイスに直接手を触れると、触った本人だけでなく遺体にも凍傷の恐れがあるため、タオルなどの《布》か《脱脂綿》に包んでから取り扱うようにします。
ドライアイスの設置場所ですが、冷気は下へ降りますので、基本的にドライアイスは『故人の体の上』に乗せてください。
ドライアイスは遺体の【腹部】を中心に下腹部や胸周辺に乗せ、頭部を冷却するときには耳や首の脇あたりに置きます。
注意点としては、遺体の関節部分にドライアイスを当てないということです。
ドライアイスで関節を冷やしすぎると関節が固まってしまい、遺体の着替えをするときや棺に納めるときに支障があるのです。
とはいうものの、遺体は冷却し続けることが大事なので、自宅で安置する場合はカーテンや雨戸を閉めて日光を室内に入れず、なおかつ冷房を入れておくなど安置している部屋の温度を限界まで下げることも重要です。
ただし、冷房の風を直接遺体に当てると遺体が乾燥してしまうので、風向きには気をつけてください。
また、ドライアイスは昇華すると二酸化炭素に戻るため、狭い部屋で安置する場合はときどき換気をして二酸化炭素中毒にならないように注意しましょう。
ドライアイスの費用
ドライアイスを使用するには費用がかかります。
ドライアイスの使用料は、季節や安置場所の条件または葬儀社によって変わりますが、1日あたり【5千円~1万円】が相場です。
葬儀社の葬儀プランまたは互助会の契約コースには必ず『ドライアイス』の項目がありますが、必要最低限の量になっていることが多く、葬儀までの日数によってはドライアイスの追加が必要になることもあります。
エンバーミングを施す
遺体を保存する方法としては、もう1つ【エンバーミング】があります。
エンバーミングとは、日本語にすると『遺体衛生保全』あるいは『死体防腐処理』という意味です。
エンバーミングは、遺体を消毒・殺菌し、血液を抜いて防腐液剤を注入したり、キズを修復するといったような特殊な防腐処理方法を施し、より生前に近い状態にすることを目的としています。
日本では遺体を火葬するのであまり馴染みはありませんが、遺体をそのまま埋葬する【土葬】の文化がある国々ではよく行われる遺体保存技術です。
エンバーミングは、
- お葬式までの日数が長く空いてしまう
- 遺体をより生前の姿に近づけたい
- 海外で亡くなった
などの場合に行われます。
エンバーミングは常温保存ができるため、暑い時期でも長期間(10日〜14日程度)の保存が可能となるのが大きなメリットです。
エンバーミングでは具体的に何をするの?
ドライアイスによる冷却保存では、数日経過するとどうしても遺体の状態が変化してしまいます。
一方で、【エンバーミング】を施せば2週間程度の長期保存が可能となり、遺体の保全だけでなく衛生的にも安全です。
エンバーミングの内容は、
- 遺体の消毒や殺菌
- 洗髪と洗顔
- 血液の排出と防腐液剤の注入
- 消化器官内にある残存物の除去
- 切開場所の縫合と傷の修復
- 全身の洗浄と衣装の着付け
- 死化粧と納棺
などです。
内容を見て分かるように、エンバーミングは資格を持った専門技術者の『エンバーマー』だけが行えるものであり、ドライアイスのように家族が処置を行うことはできません。
また、エンバーミングのメリットは、遺体の長期保存ができることだけではありません。
エンバーミングを施すことで、故人をより【生前の姿に近づける】ことができます。
お葬式の祭壇には遺影(=故人の写真)を飾りますよね。
遺影は【本来の故人の姿】をよく表しているものを選びますが、『棺桶の中の故人』と『遺影の故人』とは見た目の印象が大きく変わることが多いです。
でも、エンバーミングを施せば、より遺影の故人に近づけられるんです。
エンバーミングは、長い闘病生活で痩せてしまった部分を膨らませたり、傷跡を隠すなどして、可能な限り【本来の故人の表情】に戻すので、「できるだけ故人の本来の姿にしてあげたい。」と願う遺族が依頼をしています。
ただし、エンバーミングを施す費用はそれなりに高額であることや、施術をしている間は故人と面会できない点がデメリットになります。
エンバーミングの費用
先ほども言いましたように、エンバーミングをするには有資格者による専門技術が必要で、特殊な防腐液剤なども使用します。
そのため、費用はそれなりに高額となり、基本料金でだいたい『15万円~25万円』です。
エンバーミングの費用は【日本遺体衛生保全協会(IFSA)】で定められているため、どこに依頼しても大差はありませんが、遺体の状態によって金額は少し変動します。
また、費用が高額なのは、現在の日本では施術できる施設が少ない状況でありながら、一方でその需要が増加していることも原因です。
さらに、施設が少ないということは、遺体の搬送距離が遠くなり、それだけ搬送料金なども上がってしまうため、結果的に高額になってしまうのです。
今後は施設が増えて料金も下がっていくことを期待します。
エンバーミングは『死体損壊罪』になる?
ときどき「遺体にメスを入れたら違法なんじゃないの?」と心配する人がいます。
死体を勝手に傷つけると刑法190条の【死体損壊罪】にあたります。
しかし、エンバーミングを施すには厳しい基準が設けられており、これに準じた適正な処置がされていれば違法にはなりません。
日本遺体衛生保全協会(IFSA)で定められている基準は以下のとおり、
- 本人あるいは家族の同意を得る(署名あり)
- 日本遺体衛生保全協会(IFSA)が認定したエンバーマーが行う
- 切開は必要最低限にとどめ、最後は必ず縫合・修復する
- 処置後の遺体保存は50日までとし、必ず火葬および埋葬を行う
となっています。
ご覧のように、遺体にメスを入れるにあたり《故人の尊厳》や《遺族の心情》を十分に配慮した基準となっています。
遺体を自宅に安置できるかを確認しておく
遺体は自宅へ搬送することも多いです。
しかし、自宅の条件によっては遺体の搬送ができない場合があります。
故人は寝たままの状態で搬送されてきますので、
- 自宅内に遺体を安置するスペースがあるか
- マンションやアパートの場合、エレベーターや階段から搬入できるか
- 寝台車の駐車スペースが確保できるか
これらのことを事前に確認しておく必要があります。
あなたの自宅が『戸建て』であれば、遺体の搬送についてはさほど心配はないでしょう。
ただし、自宅が『マンション』や『アパート』の場合は要注意です。
マンションやアパートの場合、部屋の間取りの関係で【故人を安置するスペース】がないことがあります。
また、部屋の間取りには問題がなくても、部屋にたどり着くまでの《エレベーター》や《階段》など【経路の問題】で遺体を運び入れることができないケースもあります。
また、マンションやアパートの場合は駐車場が少ないため、遺体を運んできた【寝台車を停めておくスペース】がないこともよくあります。
自宅に遺体を搬送できない場合は、葬儀社の安置室か専用の安置施設へ搬送するしかありません。
安置室や安置施設を使用するには料金が発生しますので、自宅に遺体を搬送できるのかどうかを事前にちゃんと確認しておきましょう。
まとめ
遺体は死亡直後からすぐに傷み始めますので、なるべく早く【保存の処置】をする必要があります。
遺体の保存をするためには、
- ドライアイスを使用する
- エンバーミングを施す
という2つの方法がありますので、ドライアイスを使用して遺体をしっかりと冷やすか、エンバーミングという特殊な施術をして長期保存できるようにするか、どちらかを選んでください。
費用については、
- ドライアイス:5千円~1万円
- エンバーミング:15万円~25万円
くらいが相場です。
また、遺体を安置する場所については《自宅》でも《葬儀社の安置室》でもかまいませんが、自宅の場合は遺体を搬送できるかどうかを事前に確認しておきましょう。
大切な人が亡くなったら、故人の尊厳を守るためにも、すぐにしかるべき場所へ搬送し、できるだけ早く【保存の処置】をしてあげてくださいね。
※互助会のコース内容についてはこちらの記事をご参考にどうぞ。