近年では『一日葬』が急増しています。
一日葬というのは、文字どおり『一日』でお葬式を終えるスタイルです。
一日葬は、一般的なお葬式よりも費用が抑えられ、さらに心身ともに負担を大幅に軽減できるという大きなメリットがあります。
しかし、一日葬にはメリットだけでなく、知っておくべきデメリットもあるのです。
この記事では、
- 『一日葬』とは何か
- 『一日葬』のメリットとデメリット
について書いています。
本記事をご参考に、大切な人をどのように送り出してあげるのか家族みんなで考えてみてください。

記事の後半では『一日葬についてよくある質問』にも答えています。
この記事を書いている私『ちょっき』は僧侶になって29年です。お葬式を800回以上お勤めしてきた経験をもとに互助会に関する情報を発信しています。
『一日葬』とは
お通夜をせずお葬式だけを一日で執り行うことを『一日葬(いちにちそう)』または『ワンデーセレモニー』といいます。
『一日葬』の大まかなスケジュールは、
- 《お葬式前日》納棺をし、式場に遺体を搬送する(お葬式当日にする場合もあり)
- 《お葬式前日》お通夜はせずに、自宅で家族と共に過ごす
- 【お葬式当日】葬儀・告別式・出棺する
- 【お葬式当日】火葬・精進落とし(=会食)
- 【お葬式当日】収骨・解散
というカンジです。
私が初めて『一日葬』をお勤めしたときは、かなり違和感があったのを覚えています。
なにしろ一日しかありませんから、
- お葬式で使う仏具の準備
- 司会者と打ち合わせ
- 式前の喪主への挨拶
など、それまでお通夜のときにしていたことが、すべてお葬式の当日に集約されるので大忙しでした。
しかし、その後『一日葬』がどんどん増えていき、今ではすっかり慣れたもんです。
試しに私がいる寺のデータをとってみると、お葬式の依頼のうち、一日葬の割合は約41%(正確には40.8%)でした。
きっと今後も一日葬を選ぶ人が増えていくでしょう。
お通夜を省略しても問題はないの?
一日葬となれば、お通夜式を省略することになりますが、それでも問題はないのでしょうか?
結論を言うと、お通夜を省略しても問題はありません。
その理由について説明します。
まず、『通夜』というのは《家族みんなが故人のそばに寄り添って、夜を徹して見守ること》という意味です。
ですから、家族がちゃんと夜を徹して故人に寄り添っていれば、それで通夜の本来の目的を果たしています。
つまり、本来の通夜をしていれば、べつに《お通夜式》が必要というわけではないんですよね。
では、なぜ多くの人がお通夜式をしているかというと、遺族や親戚以外にも故人と最後のお別れをしたい人達がいるからです。
故人の友人、あるいは職場関係の人など、故人と交流があった人達としても最後のお別れをしたいと思うことでしょう。
しかし、お葬式は昼間に行われるので、参列できない人も多いんですよね。
そのため、お通夜式を行うことで【お別れの場】を設け、家族や親戚以外の人達に最後のお別れをしてもらうのです。



つまり、お通夜式は【故人のため】のものではないんです。
そのため、誰に参列してもらうかなどを考えた結果、『お通夜をしない』という選択もあります。
しかし、お通夜式は省略しても問題ありませんが、『お葬式』は必要です。
お葬式は『故人に引導を渡す儀式』であり、お通夜よりもずっと重要なもの。
故人に引導を渡し、戒名を授けることで仏様が守り導いてくれるようになりますので、とにかく【故人に引導を渡すこと】がメチャクチャ大事なんですよね。



正直言うと『お葬式』さえすれば問題はないです。
いずれこのことが多くの人に認知されるでしょうから、今後はメリットがたくさんある『一日葬』が主流になるでしょう。
『一日葬』のメリット
一日葬を選ぶ人は増え続けています。
なぜなら、一日葬には、
- 費用面の負担を軽減できる
- 体力的な負担を軽減できる
- 精神的な負担を軽減できる
- 時間的な負担を軽減できる
といった大きなメリットがあるからです。
では、まずメリットの詳細について解説します。
費用面の負担を軽減できる
お葬式を行うには、それなりに大きな費用が必要です。
もちろんお葬式の規模によって費用は全く違いますが、少なくとも50万円以上、場合によっては数百万円の大きな出費となります。
しかし、お通夜を省略することによって、
- お通夜後の料理と飲み物の費用
- 返礼品の費用
- お坊さんに渡すお布施
- 式場の使用料金
などが削減できます。
ほとんどの人が『費用の削減』を理由にお通夜を省略していますので、ここは1つずつ詳しく解説していこうと思います。
お通夜後の料理と飲み物の費用
まず、一日葬にすることで、お通夜式後に参列者へ振る舞う【料理と飲み物】を一日分減らすことができます。
一般的に、料理と飲み物は不足することがないように多めに用意するため、たくさん余ってしまうこともあり、その分の料理代金は無駄な支出になってしまいます。
こういった視点から見ても、料理と飲み物を一日分減らせることのメリットはとても大きく、これだけでも十数万円程度は出費を抑えられる可能性があるんです。
返礼品の費用
一日葬は、返礼品の費用を抑えられることも大きなメリットです。
返礼品は一人分がだいたい【1,500円〜3,000円】くらいだと思いますので、参列者の数によっては大きな出費となってしまいます。
弔問客の多くはお通夜に参列します。
ということは、お通夜をしなければ用意すべき返礼品の数も大幅に減ります。
返礼品の数が大幅に減れば、それだけ費用を抑えられるのです。
お坊さんに渡すお布施
お坊さんに渡すお布施は、お通夜の読経の分だけ少なくてすむ可能性があります。
お葬式のお布施の内訳はだいたい、
- 戒名料
- 通夜の供養料
- 葬儀の供養料
などです。
一日葬の場合はお通夜がないので、『通夜の供養料』が差し引かれる可能性があります。
通夜の供養料が差し引かれると、数万円の費用が抑えられるでしょう。
ただし、お寺によっては【お通夜の有無にかかわらず、納めてもらうお布施の金額は同じ】というところもあるので、事前にお寺へ確認しておきましょう。
式場の使用料金
従来のやり方であれば、式場の使用料金は2日間分が必要ですが、お通夜を省略することにより1日分の式場使用料金だけですむことがあります。
ただし、お通夜を省略したとしても、お葬式の開始時間が早い場合などは前日から準備をする都合で2日間分の料金が必要となる場合があるのでご注意ください。
また、お通夜とお葬式の両方を行う場合は、遠方から来る親戚の宿泊費などを喪主側が負担するケースも多いです。
しかし、一日葬なら、開式時間によっては宿泊が不要となり、それだけ喪主の出費も減らせます。
さらに、ちょっと細かい話ですが、駐車場誘導員の1日分の費用も削減できるんですよね。
このように、お通夜をしないことによって式場に関する費用が削減できます。
体力的な負担を軽減できる
お葬式を執り行うと、喪主はとても体力を消耗するので大変です。
深い悲しみは大きなストレスなので、大切な家族を亡くした遺族は心身ともにかなりのストレスがかかっています。
そんな状況なのに、喪主やその家族は、
- 葬儀社との打ち合わせ
- 司会者との打ち合わせ
- 生花の発注と名札の順番決め
- 返礼品業者との打ち合わせ
- 料理業者との打ち合わせ
- お寺との打ち合わせ
- 親戚をはじめ、友人や仕事関係など故人の知人への通知
- 故人を納棺する
- 先に訪れて来た弔問客の対応
など、限られた時間の中でやることがたくさんあるんですよね。
また、お葬式を自宅で執り行う場合は、
- 家の中を片付ける
- 弔問来客用の駐車スペースを確保する
- ご近所へお手伝いのお願いをする(最近はコレをあまりしなくなりました)
ということも必要なのでさらに大変です。
しかも、お葬式までの日数が長くなってしまうと、その間も交代しながら家族の誰かが夜を通して故人のそばにいなくてはなりません。



やることが多くて、ほとんどの人はお葬式当日を迎える前に疲れちゃうんですよね。
過去に喪主をつとめた経験のある人は、お通夜とお葬式の2日間がどれだけ大変だったかをよくご存じのはず。
お通夜を省略することで体を休める時間がとれますから、喪主とその家族の身体的な負担が大幅に軽減されることは間違いありません。
そして、お葬式が一日だけで終わるということは、参列者側にとっても身体的な負担を軽減できるのです。
このように、『一日葬』は身体的な負担を軽減できることが大きなメリットになります。
精神的な負担を軽減できる
お葬式は日中に行いますので、参列できる人は限られます。
そのため、お通夜をしない場合は【身内を含めた少人数】だけで行われることが多いです。
そうすると、気の知れた人たちだけでお葬式ができるため、精神的な負担が少なくてすみます。
仮に少人数の参列者の中に【気を遣う人】がいたとしても、それも1日だけですみます。



私たちお坊さんに対して気を遣うことも1日だけですみますね。
このように、【1日だけ】というところで、精神的な負担もずいぶんと軽減できるのではないでしょうか。
時間的な負担を軽減できる
一日葬ということは、スケジュールは1日分だけを考えればいいですよね。
そのおかげで、身体的、精神的、経済的な負担以外にも『時間的な負担』を軽減できます。
お通夜を省略することで1日分の時間を削減できるので、その分だけあなた自身や家族の時間に充てることができます。
お坊さんの私が言ってはいけないかもしれませんが、人生の大切な時間を有意義に使うためにも、『お葬式だけを行う』という選択でもよいと思います。
『一日葬』のデメリット
『一日葬』はメリットがたくさんありますので、おそらく今後の主流となるでしょう。
しかし、メリットだけに注目していると、意外な落とし穴に気が付かず、後悔をする事態にもなりかねません。
安易に『一日葬』を選ぶのではなく、デメリットについてもしっかりと理解してから判断をしましょう。
親戚からのクレーム
一日葬をすると、親戚からクレームが来るかもしれません。
『一日葬』というのは、比較的まだ新しい葬儀形式です。
そのため、従来のやり方を重要視する人も多く、場合によっては親戚からクレームが来ることもあります。
そのような親戚の人には、一日葬にする理由を事前に説明をしておくとよいでしょう。
参列できなかった人からのクレーム
一日葬にすると、親戚だけではなく、参列できなかった人からもクレームが来るかもしれません。
一日葬は昼間に行われます。
そのため、仕事などで参列できない人たちは最後のお別れの機会を失うことになります。
それに対して、口には出しませんが不満を持つ人がいることを覚えておいてください。
実際に、私がいる寺の信者さんにも、



◯◯さんとは生前に親しくしていたのに、お葬式の日は仕事を休めなかったのよね・・・。
と不満を漏らす人がいました。
一日葬をするなら、参列できなかった人に理由を説明できるようにしておいた方がいいでしょう。
また、お葬式に参列できなかった人は、後日に喪主の家まで訪問するケースが多いので、遺族はその都度対応をしなくてはいけません。
喪主がすることはお葬式の後にもたくさんありますので、訪れた人みんなを個別に対応するのは意外と大変ですよ。
お寺によっては嫌な顔、または拒否をされる
一日葬というのは、お寺によっては嫌な顔をされたり、拒否をされる可能性があります。
『一日葬』は、私たちお坊さんの間でもずいぶんと認知されてきました。
しかし、まだまだ『従来のやり方』を重要視するお坊さんは多いんですよね。
なので、「一日葬にしようと思います。」と言ったら、お寺のお坊さんに【嫌な顔】をされる可能性があります。



一日葬を拒否されることも十分にあり得ます。
お坊さんとしては、今まで当たり前のようにお勤めしていたものをいきなり省略するわけですから、何となく故人の供養まで省略しているような気分になるんですよね。
それに、ただでさえ、ここ数十年の間でお葬式のやり方がかなり簡略化されています。
そこへ、さらに【お通夜】まで無くなってしまうんですから、従来のやり方を重んじる考えの住職さんの胸中は穏やかではありません。
一日葬にしたい理由をしっかりと住職さんに説明してあげてください。
お坊さんの話(法話)は聞けない
一日葬にすると、お坊さんの話(法話)は聞けないかもしれません。
お坊さんは、お通夜式のときにいろんな話(法話)をします。
人が亡くなるとはどういうことか、故人に授けた戒名にはどのような意味があるのか、などの話をします。
しかし、それはお通夜式のように【法要後に話をする時間がしっかりと確保されている】ことが条件であるため、基本的にお葬式の後に話はしません。
話ができたとしても、ごく簡単な内容しか話せません。
なぜなら、『火葬場への到着時間』が厳しく決められており、話をする時間がほとんど無いからです。
一日葬を行うことで、お坊さんの話を聞けない可能性が高いことをあらかじめご了承ください。
一日葬のよくある質問
一日葬は最近出てきたお葬式の形態なので、信者さんからも一日葬に関するいろんな質問をされます。
しかし、質問の内容はだいたい決まっているので紹介します。
一日葬の費用の平均はどのくらい?
一般的なお葬式の費用は【約210万円】くらいかかりますが、一日葬なら『お通夜』がない分だけ費用が減ります。
一日葬の費用は、お坊さんへ渡す『お布施』も含めると、平均で【60万円~100万円】といったところでしょう。
よく『葬儀費用が9万〇千円〜』みたいに驚くほど格安料金のお葬式プランを打ち出している葬儀社があります。
しかし、格安料金のお葬式というのは【本当に必要最低限】あるいは【必要なものが一部不足している】という内容です。
一般的な見栄えのお葬式をしようと思ったら結局は100万円程度かかりますのでご注意ください。
一日葬のお布施の相場はいくら?
一般的に、お葬式をするときには【お坊さん】に来てもらいます。
お坊さんに来てもらったら、当然ながら『お布施』を渡さなくてはいけません。
お布施というのは、宗派や地域、あるいは授かる戒名(法名)によって大きく違いますので、相場をお伝えするのは難しいです。
それでも、あえて相場を言うと、
- 戒名を付けない:20万円~30万円
- 戒名を付ける:30万円~100万円
くらいでしょう。
ただし、すでにお付き合いをしているお寺がある場合は、必ずそのお寺に【お布施の金額】を確認してください。
一日葬でかかる時間はどのくらい?
一日葬は、『一日葬』という名前ではありますが、本当に丸一日かけて執り行うものではありません。
一日葬は、喪主が式場入りしてから火葬場を出て解散するまでに【5時間】程度かかります。
まず、多くの場合、喪主は《開式の1時間前》には葬儀式場に入ります。
そして、お葬式の開始から出棺まではだいたい1時間15分。
一般的に、葬儀式場から火葬場までの移動時間が30分~45分。
最近の火葬炉は性能が良くなっているので、火葬時間から収骨までが1時間40分。
最後に、火葬場を出て親戚などに参列の御礼などを言って解散するまでに20分。
これで、おおむね5時間くらいとなります。
ただし、地域によっては、火葬が終わったらその日のうちにお墓へ納骨するケースもあります。
その際は火葬場から墓地までの移動や納骨供養の時間などを合わせると、さらに1時間30分くらい追加となります。
まとめ
故人を送り出すには、お通夜をせずに【一日葬】でも問題はありません。
もしも、故人が生前に「お通夜はしなくてもいい」と希望していれば、その遺志を尊重することも大事です。
しかし、特に理由もなく、ただ【楽だから】とか【安いから】というだけでお通夜を省略しないでくださいね。
どのようにお葬式を執り行うかを決めるのは喪主や遺族の考え方次第、つまり自由です。
自由だからこそ、後悔のないように、故人を送り出すために何が一番良い方法なのかをよく考えた上で決めましょう。
※こちらの記事もご参考にどうぞ。